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自然欠乏症候群の解説ページ
CONTENTS
●[知識] 自然欠乏症とは
●[知識] 能力を高める自然
●[知識] 自然の欠乏度をチェックしよう
●[知識] オプティマムヘルスとしての自然
●[知識] 自然に身を置き、心身がととのう
●[知識] 自然欠乏を解消して、五感を開く
●[実践] 自然を補いととのう(都会編)
●[実践] 自然を補いととのう(田舎編)
●[実践] 自然の中の毎リトリートでととのう
自然欠乏症とは
自然欠乏症とは、自然から遠ざかることで生じる、様々な精神的な不調や能力の低下のことです。
都市生活では、本来の自然を体感することが少なくなってきています。
一方で、医学が発展している中で、体の不調を感じる方が少なくありません。
人間がサルから進化した過程では、その多くを自然の摂理、自然のリズム、完全なる自然環境や食の中で生き、私たちの身体にもそれが組み込まれています。
しかし、この数世代は自然のリズムとかけ離れた生活、不自然な物質を体内に入れた食生活などをしています。
子供から大人まで、体調不良になっている原因に、この不自然さ、自然との関り不足、自然のリズムとの不調和があると考えられています。
また、都市型生活では「指向的集中による疲労・疲弊」に陥り、その結果、衝動的行動、苛立ち、焦燥感、注意力低下などが現れやすくなると言われています。
これに対して、自然の中で、激しくない適度な運動によって感応的集中(無意識の集中)に移行し、指向的集中をひと休みさせることができるとしています。
自然に身を置くことで、日頃の心理的疲労を回復させるのみならず、注意力や集中力などの向上も期待できるとされているのです。
能力を高める自然
IQ(知能指数)や読み書き、テストや検定で発揮する能力に対して、最近は、思考力、判断力、表現力、自制心、コミュニケーション能力の重要性が指摘されるようになっています。
最近、英国の科学誌ネイチャーサステナビリティ(電子版)に掲載された“森林の効果”がとても興味深くご紹介します。
この論文では「森林のそばに住む子供の方が、草原や川のそばに住んでいる子供と比べ、これらの能力が発達し、メンタルヘルスや全体的な心身の健やかさが良い状態にある」と結論付けています。
研究者らは、環境を「草原」「森林」「川・湖・海」の3群に分けて、生徒の年齢、民族、性別、両親の職業、通っている学校のタイプなどの説明変数(因果関係の原因となる変数)を調整、その結果が上記のようになったのです。
“自然欠乏症候群”を提唱している私としては、いろいろな自然、相性の良い自然など、身近で受け入れやすい自然の全てが重要と考えていましたので、ある意味で驚きでありましたが、森林での多様性、移り変わり、他の動物との接点など、複雑性を極めた森林が、子供の成長に影響しているのかもしれません。
自然の欠乏度をチェックしよう
自然が足りているかどうか、以下のチェックで判定してみましょう。
□ 日の出と日没を意識して生活している
(日の出前に起床、日没から4時間以内に消灯)
□木材など自然素材の住宅に住んでいる
□静寂や自然音を感じやすい場所で活動している
□自然の香りを実感しやすい環境で活動している
□自然素材の衣服を着ることが多い
□携帯電話やPCなどに接することは少ない
□長時間の運転や電車通勤(通学)をしていない
□主に自然食を摂取し、化学薬品はほとんど摂取していない
□飲料物は、自然水や有機栽培などで作られたものである
□食後は食休みをして"ながら喰い"はしていない
□電気毛布/電子レンジ/IHなどは使っていない
□日常的に森林浴、海水浴、月光浴、日光浴などをしている
□一日の中で、土や砂浜、芝などの上を歩くことが多い
□人や動物との肌の触れ合いや、温もりを与え合っている
□四季を意識した食事、行動をとっている
【チェック結果】チェックの数が
・10項目以上 → 良好
・7-9項目 → やや欠乏
・4-6項目 → かなり欠乏
・3項目以 → 重症の自然欠乏
医学の父、ヒポクラテスは「自然から遠ざかるほど病気に近づく」という言葉を残しています。
あなたの結果はいかがだったでしょうか。
オプティマムヘルスとしての自然
「オプティマル(Optimal)」は「最高の、最適な、至適な」といった意味です。
Optimal Healthとは「最高の心身状態をめざす健康」。これは一般論ではなく、その人にとって最適であることを意味します。
米国では、20年ほど前からヘルス、ウェルネスに続く健康観として位置づけられ、定着してきている言葉ですが、日本では新型コロナウイルスのまん延を契機に健康維持の方法や暮らし方までも大きく変化、多様化されてように思います。
自然界は多様で、不規則の連続です。
これまでの自分の自然体験度は? 自分にとって相性の良い自然とは? 自然との関り方は?など、答えは一つではなく、自分にとって至適な自然との関わりを模索することが大切なのです。
より多く自然に囲まれることで、健康の在り方を学び、理屈ではなく体感できるのではないかと思います。
自然に身を置き、心身がととのう
近年は自然療法が再評価・再認識されていますが、先進国で都市生活をされている方に、癒される場を聞くと、約90%の方が、花、樹木、草、森、水、川、空、海などの自然要素を回答されると言います。このことから、多くの方が自然を渇望し、またその“場”が重要だということが分かります。
フランスではミリューセラピーという概念があり、人間を取り巻く環境を整え、それにより自己治癒力を活かすというものです。
ミリュー(Milieu)はフランス語で、中庸、環境。このミリューセラピーにおける環境(場の設定)とは以下の5つになります。
① 時間の経過が感じられる自然
② 自然の循環が感じられるもの
③ 五感を刺激し、知覚を開き、心を開く
④ 瞑想できる
⑤ 人との交流を促進できる
さまざまな自然療法や伝統医学分野の薬や治療法をうまく組み合わせることも必要ですが、よりシンプルにしていくと、このような「場」をつくり、身を置くことが大切なのです。
自然欠乏を解消して、五感を開く
五感は開いていますか?
本来、動物は生き延びていくために五感の感度を最大限に発揮し、活用してきました。
しかし人間が作り出した都市生活では騒音や異臭、排気ガス、さらに目には過剰な刺激、靴の普及と整備された路面など環境が一変しました。
幹線道路の道端で深呼吸をしたくないのは、排気ガスなどを肺胞の奥まで入れたくないという生体防御反応に思います。
都市生活者は、五感をある敢えて閉めている状況にあると思います。
このような環境下では、五感は開かれず、感覚全体、感性なども鈍くなってしまいます。
新鮮な森の空気、耳心地の良いせせらぎや鳥の鳴き声などの自然音、草木や雨上がりの匂いや植物の香り、土や草などの無機質ではなく不規則性のある地面の感触や木肌の感覚、木漏れ日、せせらぎや風になびく樹木や葉の動き、湧き水や果樹などの味などは、五感を開くことを手助けしてくれます。
このような自然の中で過ごすことで、普段いかに不自然な環境に身を置いているのかを実感すると同時に、自分の感覚が研ぎ澄ましていくのを感じることができるでしょう。
自然を補いととのう(都会編)
都市生活でも自然を補うことはできます。
できるだけ朝日を浴びて夜更かししない、川の土手や公園などでは、できるだけ芝や土の上を歩く、樹木に触れる、自然食(化学物質の入っているものをできるだけ避ける)など、前述の自然欠乏症候群チェックリストを参考にして生活をすることです。
またベランダ菜園や家庭菜園など、できるだけ土に触れて野菜を育てることも大切です。
特にMycobacterium vaccaeという細菌が、メンタルヘルスに有効な微生物として指摘されています。
この細菌は土壌に生息する腐生性細菌です。
マイコバクテリウム・ヴァッカエ(Mycobacterium vaccae)には、抗炎症、免疫調節、およびストレス耐性の性質があることがわかってきました。
市街地でも、公園や神社やお寺など、自然の残るマイスポットに赴き、五感を開き、四季による変化を体感することも都市部でできる自然欠乏症対策です。
自然を補いととのう(田舎編)
田舎では、都市生活に比べて自然との関りが日常的にあります。
しかし自動車による移動が多く歩かなくなっている、という点では不自然になりやすい状況とも言えます。
意識的に自分の足で山林や舗装されていない場所を歩くことが大切です。
一般農家では、化学肥料や農薬、除草剤の使用も少なくありません。
田舎にいるのであれば、できるだけ自分自給率を高めるために、自分で野菜を育てること、それが無理でもオーガニック農家との関わりを大切にして、繁忙期のお手伝い、食材としの利用が、自然欠乏症候群対策に繋がります。
また五感のなかで、どの感覚が自分にとって鋭敏で研ぎ澄まされているのかを感じることも自然豊かな田舎では実施しやすいと思いますので、その時間や場の確保を意識してみてください。
自然を活かし自分のサイクルを作りととのう
自然の中で、自然欠乏症候群を改善させることのできる場所、それはある意味でリトリートでもあります。
リトリートでは、マインドフルネスで自分を見つめ、自分の在り方、自分軸を修正します。
それを最適な健康状態(オプティマムヘルス)のために日々の生活で行動、実践していく。また時々リセットする機会をリトリートで行う。
このリトリート→マインドフルネス→オプティマムヘルス(オプティマムライフ)→リトリートの循環がうまく機能すると、自分にとって最適な生活、至適な心身の健康を導き出すと考えています。
文責/監修:山本竜隆(やまもとたつたか)
朝霧高原診療所院長。
昭和大学医学部客員教授。
医師・医学博士。
WELLNESS UNION(日月倶楽部・富士山静養園)代表
アンドルー・ワイル博士が運営する米国アリゾナ大学医学部統合医療プログラムAssociate Fellowをアジアで初めて修了(2000年~2002年)。現在は標高700mの朝霧高原にて、ガスや水道の無い生活を続けている。
富士山麓の数万坪の山林や湧水を有する「日月倶楽部」「富士山静養園」両施設では、さまざまリトリートプログラムが完全貸切りで開催。
映画「癒しのこころみ」の舞台ともなっている両施設では、マインドフルネス、各種セラピストの研修・合宿、最近では農業や地域創生などの勉強会なども数多く行っている。
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