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快眠・寝落ちの医学

快眠・寝落ち

CONTENTS

眠りに不調を感じたら
睡眠にとって最も大切なこと
睡眠を妨げる脳の状態
心の状態をととのえる
セルフコンパッションを高める

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快眠・寝落ち瞑想の理論と実践

 

眠りに不調を感じたら

厚生労働省の発表によると、日本の一般成人の30~40%が何かしらの不眠症状を抱えているといいます。

そんな中、メディアやネットなどで多くの不眠解消法が紹介されていて、このページでもそのいくつかをご紹介していますが、そういった対処をする前に、医師の立場から注意喚起させていただきたいことがいくつかあります。

治療しないと治らない「内科的疾患」が原因で不眠になるケースがあるということです。

眠っている時に10秒以上呼吸が止まる「無呼吸」が頻回に出現する閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)や、足がそわそわしたり勝手に動いたりするレストレスレッグス症候群などです。

OSASは、男性は年齢を問わず、女性の場合は50代以降の閉経後に多い傾向があり、はっきりと無呼吸が見られなくても、加齢に従っていびきが酷くなってきたら疑う必要があります。

レストレスレッグス症候群は、特に就寝前に脚がむずむずしたり、じっとしていられない状態が続いたら疑わしく、診断には専門の医師による診察や検査が必要にもかかわらず、大変多くの方が診断されないまま放置している可能性が指摘されています。

以上の症状がある時は、まずは専門の病院などで検査をして、問題がなければ自分でも対処するようにしましょう。

眠りのツボを押さえよう

 

睡眠にとって最も大切なこと

世の中には素晴らしい不眠解消法が数多くありますが、そういったテクニックを実践する前にまず、睡眠にとって根本的に必要な「概日リズム」という考え方をご紹介しておきたいと思います。

地球上のほとんどの生物が、およそ24時間の周期で生理的な状態が変化するようにできていて、この生物的なリズムを概日リズム(がいにちりずむ)と呼んでいます。

不眠に悩む方の多くは、そもそもこの概日リズムが乱れているため、いくら効果的なテクニックを使ったとしても、入眠や睡眠の質の問題を根本的に解消することが難しいのです。

乱れてしまった概日リズムをととのえるには、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンの分泌リズムを正常化することが大切です。

メラトニンとは、脳内の松果体という所から分泌されるホルモンの一種で、自然な眠りを維持する働きがあり、その分泌量は、目から入ってくる光の刺激と大きく関係していることが分かっています。

朝起きた後に光を浴びると、目の網膜から入った光の刺激が松果体を刺激して、メラトニンの分泌が抑制され、その14~16時間後から再びメラトニンの分泌が増えてくるのです。

例えば朝の7時ごろにしっかり光を浴びておけば、21-23時ごろには自然と眠気が訪れて、脳が寝る態勢を作ってくれるということです。
(ただしメラトニン分泌と眠気の自覚には、人によってタイムラグがあるようです)

ですから、何よりもこのリズムを整えるために、朝はカーテンを開けるなどしてしっかりと光を浴び、生体としてのリズムを整えることが、自然な眠りを誘い、質のよい睡眠を取るために最も大切な要素になるということです。

そしてそれ以外のテクニックは、この自然の働きを助けたり、補ったりする位置づけになるということを、まず最初にしっかり押さえておきましょう。

眠りのツボを押さえよう

 

睡眠を妨げる脳の状態

生体リズムをととのえることで、根本的に睡眠の質を改善しながら、同時に心の状態をととのえることで効果的に入眠を助け、睡眠の質を高めることができます。

私たちの脳には、寝ている間に「夢」を見させる機能があります。この夢には「検閲(けんえき)」という機能があって、日中にあったストレスフルな出来事や、それに伴って湧き起こる様々な衝動を、心の中で別の事柄に置き換えたり、抽象化したりすることでできるだけ無毒化し、睡眠を維持させるのに役立っていると考えられています。

この検閲によって、脳は様々な出来事や自分の衝動を夢の中ではマイルドな体験に置き換えて、受け入れやすい形にしてくれるのですが、この検閲が追い付かないくらい大きなストレスを抱えた場合は、睡眠の質が大きく低下し、何度も中途覚醒をしたりすることになります。

とくに寝る前に嫌なことを考え続けたり、感情が不安定なまま過ごすことは、睡眠の質を大きく落とす要因となってしまうと考えらえています。

ととのいの医学」でも紹介したように、こういった状態では脳のアイドリング状態(待機状態)とも言える、DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)という働きが過剰になってしまい、入眠前や睡眠中に様々なことを考えてしまったり、脳の扁桃体が活性化してネガティブな感情が過剰に湧き起こったりして、睡眠の質を著しく低下させてしまうことになるのです。

[関連ページ] ととのいの脳科学①『DMN』

 

心の状態をととのえる

深い睡眠を妨げる脳の働きをリセットして、睡眠に適した脳の状態へとととのえるためには、集中によってDMNの働きを断ち切り、ありのままの状態を感じたりしながらアクセプタンス(受容)を向上させることが大切になります。

そしてこの両方に効果的なのがマインドフルネスです。

マインドフルネスとは、今この瞬間に集中し、一切判断することなくありのまま感じるという心の状態であり、そういった状態に心を導くために最適なのが様々な種類の瞑想法です。

例えば、呼吸瞑想を行うことで、他への注意を断ち切って呼吸にのみ意識を向けたり、ボディスキャン瞑想で、身体へのマイルドな集中を引き起こしたりして、DMNの働きを抑制したり、アクセプタンスを向上したりして、上質の睡眠のための下地を作ることができます。

ボディスキャン瞑想は、寝ころび姿勢で行うことが多いので、そのまま寝落ちすることで、朝のスッキリ感が高まるという、不眠症患者さんのケースも増えてきています。

こういった穏やかな集中で気持ちを切り替えることが難しい場合は、簡単なストレッチや身体に軽い負荷のかかる姿勢を取り、身体の感覚に注意を集めたりすることもお勧めです。

ただし、激しい運動などであまり強い刺激を与えてしまうと、交感神経を刺激し過ぎて余計に眠りにくくするので控えましょう。

ここでは、お休み前にも使える呼吸瞑想とボディスキャン瞑想の音声をご紹介しておきたいと思います。

 

セルフコンパッションを高める

自然な入眠を助け、睡眠の質を高めるために、セルフコンパッションのワークもお勧めです。

セルフコンパッションとは、自分を思いやり慈しむ心のことで、自分に優しさを向けたり、自分の頑張りを労ったり、自分が生きていることに感謝したりすることができている状態のことです。

自分を思いやるといっても、自分だけを大事にするエゴイスティックな考えを持とうという訳ではありません。

仏教に「自利利他円満(じりりたえんまん)」という言葉がありますが、自分を思いやることと他人を思いやることは表裏一体の関係で、その両方を意識することができた時にこそ、円満な人生を送ることができると教えています。

セルフコンパッションとは、まさにこのスタートラインである自利のステップで、自分に対する慈しみの心が、やがて自然に利他へとつながっていき、自他共に幸せへと導いてくれるという考え方なのです。

また、直接的に自分を思いやる行為だけではなく、心地よいと感じるものに触れることも、セルフコンパッションには含まれていて、自分に対して癒しを与えるという慈しみの行為だと捉えることができます。

ここでは、お休み前にできる簡単なセルフコンパッションについて、ご紹介していくことにします。

●今日できたことを振り返る
一日を振り返って「今日できたこと」を3つ、心の中で思い浮かべたり、ノートに書いたりします。「ご飯を美味しく食べられた」「朝起きることができた」など、自分の状態に合わせて限りなくハードルを下げてOKです。

●感謝の瞑想をする
過去にお世話になった人や、今お世話になっている人、自分が今生きていることや、身体の様々なパーツや働きに対して、心の中で順番にお礼を伝えていきます。

●身体に手を当てる
片手でも両手でも、胸やお腹、あるいは疲れているところに手を当てて、優しい気持ちでその箇所に生じている感覚に注意を向けて過ごします。

●もふもふしたものを抱く
柔らかい毛布やぬいぐるみなど、もふもふして気持ちいいものを抱きながら、その心地よさをただ感じておきます。

●慈悲の瞑想を実践する

※関連ページ 「ととのいの医学」

 

文責/監修:川野泰周(かわのたいしゅう/ひろのり)

臨済宗建長寺派林香寺住職。
精神科・心療内科医。

2005年、慶應義塾大学医学部医学科卒。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。

2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行を経て、2014年末より臨済宗建長寺派林香寺の住職となる。

現在は寺務の傍ら、都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。著書多数

川野泰周オフィシャルHP
川野泰周マインドフルネスチャンネル

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