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笑いの効果
CONTENTS
●[知識] 笑いの効果
●[知識] 免疫力を高める笑いの効果
●[知識] 笑いと病気リスクの関係
●[知識] 自律神経を調整する笑いの効果
●[知識] 呼吸機能を改善する笑いの効果
●[知識] 認知機能を改善する笑いの効果
●[知識] 笑いと体幹の筋肉の関係
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●笑い瞑想
●ラフターヨガ/笑いヨガについて
●ジブリッシュとは
笑いの効果
笑いの様々な効果は「笑いのととのい効果」「ヨガとしてのラフターヨガ」で触れていますが、ここでは世界各国で行われている「笑いの効果」についてのエビデンスを紹介していきたいと思います。
笑いの効果は、健康上の効果、能力向上の効果など多岐に渡りますが、その中でも特筆すべきもの、興味深いものをピックアップしてみました。
免疫力を高める笑いの効果
笑いの効果として、最も多くの方に知られているエビデンスが、笑いが免疫力を高めるということです。
健康な人の体内では、1日に3000~5000個のガン細胞が発生していますが、人が生まれつき持っている50億個のナチュラルキラー細胞(NK細胞)がこれに対処しているおかげで、ガンにおかされずにすんでいます。
このナチュラルキラー細胞(NK)の命名者であり、免疫学の世界的権威である順天堂大学の奥村康教授は「ストレスを受けると、体内の重要な免疫細胞であるNK細胞の活性を低下させることがわかっている」「逆にストレスをため込まず、上手に受け流すことができる人はNK細胞の活性を低下させずにすむ可能性が高まる」、そのための重要なファクターのひとつが「笑い」あると述べられています。
このことは複数の論文で明らかになっていて、例えば、Bennettらによる研究では、ユーモラスなビデオを見て笑った後、参加者のNK細胞の活性指数が有意に増加しました。NK細胞の活性化の平均値は、笑う前の1.26倍に増加するという結果が出ています(※1)。
また、私たちの体内で病原体やウイルスの侵入を防ぐ役割を担っているといわれる免疫グロブリンA(IgA)の濃度も、笑いによって増加することが明らかになっています。Berkらによる研究では、IgA濃度の平均値が、笑う前と後では1.45倍も増加するという結果が出ました(※2)。
日本国内にも、同じような研究結果があります。
1992年(平成4年)、大阪ミナミの演芸場で、ガンや心臓病の人を含む19人の方々に、漫才や新喜劇を見て大いに笑ってもらった後、免疫力がどうなるのかということを、岡山県の「すばるクリニック」の伊丹仁朗院長と大阪府の「元気で長生き研究所」所長の昇幹夫医師が共同で実験(※3)しました。
実験は、たっぷり3時間大笑いしてもらい、その直前と直後に採血してNK細胞の活性を調べるというものでした。実験の結果、笑う前にNK活性の数値が低かった人は、すべて正常範囲までアップし、高かった人の多くも正常近くの数値に下がるということが確認されました。(※3)
※1 THE EFFECT OF MIRTHFUL LAUGHTER ON STRESS AND NATURAL KILLER CELL CYTOTOXICITY (Mary Payne Bennett)
※3 大阪府発行・笑いと健康啓発冊子「大阪発笑いのススメ 意外と知らない笑いの効用」
笑いと病気リスクの関係
免疫力が高くなると病気になりにくくなることは明らかですが、心血管疾患や循環器系の疾患の病気のリスクを低減する効果も様々な形で発表されています。
普段からよく笑う人と、笑わない人とでは、免疫とは直接関係のないような病気のリスクが大きく変化し、死亡率にも影響を及ぼすことが知られているのです。
山形大学の医学部が2019年に発表した調査によると、山形市など7つの市に住む40歳以上の方2万人の健診データを2009~15年にかけて分析した結果、これらの方々が2017年までに死亡した事例が、「頻繁に大声を出して笑う方」とそうではない方とでは、死亡率が2倍の違いがあることが判明しました。
また「たまに笑う」方は、「よく笑う」方よりも、脳卒中など心血管疾患の発症率が高いことも分かりました。
この分析によると、笑う頻度が少ないのは、男性、喫煙者、飲酒者、運動しない人、一人暮らしの方とのことで、これらの影響や偏りは否めませんが、そういった因子の影響を補正したとしても、よく笑う方と笑わない方とでは、死亡率が2倍の開きがあったとのことでした。(※4)
東京大学大学院医学系研究科の論文によると、普段「ほとんど笑わない」高齢者は、「ほぼ毎日笑う高齢者」に比べて、脳卒中になる割合が約1.6倍高く、心疾患は約1.2倍高かったとの研究結果があることからも、やはり笑いと病気リスク、特に循環器系の疾患の発症を抑える効果があるようです。(※5)
※4) Associations of Frequency of Laughter With Risk of All-Cause Mortality and Cardiovascular Disease Incidence in a General Population: Findings From the Yamagata Study
※5) 近藤尚己(東京大学大学院医学系研究科)「笑わない人は脳卒中リスク1.6倍増」『日本疫学会専門誌 Journal of Epidemiology』(2016)
自律神経を調整する笑いの効果
心血管疾患や循環器系の疾患の、病気リスクが軽減するということと深く関連しますが、笑うことによって自律神経が安定することが、これまでの様々な研究で明らかになっています。
2006年「自発的笑いが自律神経に及ぼす効果」(※6)によると、自然な笑いが生じている最中は交感神経が上昇し、それを終えると交感神経の低下、あるいは副交感神経の亢進が認められました。
2020年「笑いの実践による生理的・心理的効果」(※7)では、中高年齢者を対象に、笑いグループと、笑いなしグループの比較から、笑ったグループでは、心拍変動分析によって副交感神経優位の傾向を示す被験者が多いことが明らかになっています。
また、快感ホルモンであるエンドルフィンやドーパミンが脳を興奮させる一方で、セロトニンがその過剰な分泌を抑制することで、自律神経のバランスが整うと考えられていますが、笑いがこの二種類のホルモンを分泌することも、様々な研究の中で明らかになっています。
2003年「笑いが女子大生の免疫機能に与える影響」(※8)によると、お笑いビデオを試聴した女子大生の半数に、βエンドルフィンの上昇を認められたとの報告があり、また2015年「Effect and Path Analysis of Laughter Therapy on Serotonin, Depression and Quality of Life in Middle-aged Women」(※9)では、うつ病の中年女性が笑いヨガによる治療によって、セロトニンの上昇が確認されています。
このように、笑いは緊張と弛緩という対極の刺激によって、交感神経と副交感神経のバランスを調整する働きがあると考えられます。
自律神経の不調は、様々な病の原因となります、笑いによってその大きな原因を取り除くことができるということが、多くの研究によって明らかになっていると言えます。
※6) 石原俊一「自発的笑いが自律神経に及ぼす効果」(2006)
※7) 藤田恵理「笑いの実践による生理的・心理的効果」(2020)
※8) 田中愛子,市村孝雄,岩本テルヨ「笑いが女子大生の免疫機能等に与える影響」(2003)
呼吸機能を改善する笑いの効果
免疫力の向上、自律神経の調整、病気リスクの軽減のすべての要素と関わっているのが呼吸です。
笑いは、肺の中に溜まっている空気を一気に吐き出すことができるダイナミックな呼吸法です。
通常の呼吸では、私たちは約500mlの空気を吸っては吐いてを繰り返しています。その間、肺には約1500mlという大量の古い空気が残っていますが、お腹から笑うことで、残っている古い空気を強制的に吐き出し、より多くの酸素を取り入れることができます(※10)。
実際に、私も2019年に関西国際大学 櫻井一成教授と共同研究(※11)を行った際、呼吸器系の機能向上に笑い(笑いヨガ)が役立つ結果が出ました。
この研究では、毎月2回の笑いヨガセッションを3ヶ月行なったグループ(B)と、同じプログラムに加えて毎日10分を目安にした自主トレーニングを行なったグループ(A)を比較しやすい形で結果をまとめています。
A、B両群共に、肺活量の増量効果が比較的早期に得られることを見出すことができました。すなわち「笑いヨガ」講習会を3回受講した段階でA群は2割弱、B群も1割を超える増量となり、その後も肺活量が増えたまま推移することが判明しました。
さらに、「自主トレーニング」の効果は大きく,これを進めることで,非実施の場合と比較して約2倍の肺活量「増量効果」が得られることも明らかになりました。個々の実施前後の比較において、A群では実施後に肺活量が2倍以上に,またB群でも約1.5倍になった例も散見されました(図9左図)。
肺活量の増量は,呼吸機能の改善に向けた最も重要な所見であると櫻井教授は話されます。特に、「自主トレーニング」併用による取り組みは非常に効果的であり、ここでは割愛しますが、呼吸数減少や SpO2 値の改善等のバックアップデータも取ることができていて、信頼性が高いものと考えらると述べられます。
※10) Laughter Yoga International 資料「LAUGHTER YOGA THE SCIENCE OF BREATHING.」
※11) 「笑いヨガ」により生活の質を改善する -ストレス低減による心身の健康維持効果の実証-(櫻井一成、大久保信克他 ・神戸山手大学紀要第21号(2019.12))
認知機能を改善する笑いの効果
笑いは、認知機能の改善にも効果があるという可能性が、日本国内の研究で示されています。
福島県立医科大学医学部疫学講座教授大平哲也(おおひら てつや)氏による研究(※12)では、地域住民2,471人を対象として笑いの頻度と生活習慣との関連を検討した結果、笑う機会が「ほとんどない」人は、「ほぼ毎日」笑う人に比べて認知機能低下症状が出現する危険度が3.61倍であり、笑わない人ほど1年後に認知機能が低下するリスクが上昇していたというデータが出ています。
「笑わない」背景には、人間関係の問題など周辺要因も含めての作用が考えられますが、それにしても3.61倍とは中々の数値です。
一方、半年間の笑いによる介入の結果、参加者の心拍数の低下、QOLの改善がみられたが、認知機能に変化はみられなかったという結果も出ています。笑い・ユーモアによる療法は認知症の予防、およびうつ症状や睡眠障害など、認知症の周辺症状を改善できる可能性が考えられます。
「笑いは百薬の長」「Laughter is the best medicine」は全世界で共通することわざです。認知症の状態を改善や予防には、ストレス軽減、社会的なつながり、脳の刺激、リラックス効果が大切であると言われますが、まさに笑いはこれらの課題解決に直接的に役立つ可能性があるわけです。
※12) 笑い・ユーモア療法による認知症の予防と改善.老年精神医学. 22(1), 32-38, 2011.(大平哲也 ほか)
笑いと体幹の筋肉の関係
最後に、心身ともに「ととのう」ことに、意外にも大きな関係がある「体幹」と笑いの関係について、非常に興味深い研究結果があるのでご紹介したいと思います。
2014年にドイツの研究者Heiko Wagnerが発表した「Laughing: A Demanding Exercise for Trunk Muscles」、体幹トレーニングとしての笑いという論文(※13)です。
この実験では、14名の被験者に対して、体幹を作る筋肉である腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、脊柱起立筋、腰多裂筋に電極が付けられた状態で、クランチなどの腹筋運動と、笑いヨガのエクササイズを実践してもらいました。
この結果、測定された筋肉群では最も深層にある、内腹斜筋のみ、クランチよりも笑いの方が1.5倍の収縮が見られたのです。
アウターマッスルは、意思の力や義務感で鍛えることができますが、こうやって作られた姿勢は持続させることが難しく、腰痛の原因にもなりかねません。
一方でインナーマッスルは、喜びや高揚感で収縮し、腰に負担をかけず長時間の姿勢保持にも有効です。
笑いによって、姿勢保持に最も必要とされる筋肉が活性するというのは、実に興味深い研究結果だということができます。
※13) Heiko Wagner, Ulrich Rehmes, Daniel Kohle, Christian Puta「Laughing: A Demanding Exercise for Trunk Muscles」(2014)
文責/監修:大久保信克 / 綿本彰
◇大久保信克(おおくぼのぶかつ)
株式会社 笑い総研 代表取締役。一般社団法人Gibberish-Lab.共同代表理事。
Laughter Yoga International認定 ラフターヨガマスタートレーナー。
18歳の時に、「世の中をよくする鍵は笑いだ」と直感し、笑いの研究を開始。人々の可能性を豊かに輝かせるきっかけとして、笑いを追求し続ける。意味のない言葉を口に出す「ジブリッシュ」の第一人者としても活躍。TEDx登壇「一瞬で雑念を消し去る方法」。第11回 全国講師オーディション最優秀グランプリ受賞。現在は、企業での講演やメディアでの情報発信など、精力的に活躍している。
◇綿本彰(わたもとあきら)
日本ヨーガ瞑想協会会長。一般社団法人ワークフルネス理事。
Laughter Yoga International認定、ラフターヨガ講師。
マインドフルネス瞑想指導者トレーナー、ヨガニドラ指導者トレーナー。
瞑想/睡眠系YouTuber。
世界各国でヨガ/瞑想/マインドフルネスを指導し、長きに渡り日本におけるヨガ/瞑想をリード。
様々な地域や施設に対応した瞑想プログラムの構築、瞑想的な観点からの施設コンサルティングなどを積極的に行っている。
50冊以上の著書は、累計100万部を超える。
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